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zoom RSS 月刊ポエム5月号「酸っぱい」

<<   作成日時 : 2014/05/04 18:00   >>

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            「酸っぱい」

いいのかなあ。
僕は早くも怖気づいていた。姉はひとりでずんずん先を歩いている。角
を曲がると鉄道駅で、姉の目指す先はその隣り、最近オープンしたばか
りのファミレスだ。
「ねえ、そこは入っちゃいけないって母さんから言われてるんだよ」
「あたしといっしょなら大丈夫」
そうかなあ。中学生の姉ならオッケーで、小学生の僕はだめってこと
だったかなあ。父と母は親戚に不幸があって、兄といっしょに出かけて
いった。姉はこんなチャンスを逃さない。
「任しときなって。あたしがちゃんとお金払うんだから」
振り返りもせずに姉は言う。でも、どうしてそんなにファミレスにこだ
わるの? 時々、家族みんなで食べに行くのに。
「うるさいなあ。黙ってついてきなさい」

五月連休のさなかだったがファミレスは空いていた。白いエプロンをつ
けた女の店員さんが僕らを見て少しだけ眉をひそめたが「いらっしゃい
ませ」と笑顔で窓際の席に案内してくれた。僕の心臓はどきどき。悔し
いが、こんなときは姉のすまし顔が頼もしくみえる。姉はテーブルに座
ると僕を見た。
「何にする。五百円以下なら許す」
はあ、それじゃドリンクバーくらいしかないじゃん。
「姉さんは?」
「あたしはもう決めてるからいいの」
姉はそう言うとメニューを開いた。ソフトドリンクのページだった。
「これ」
ふーん。僕はちょっと迷ったが、予算ぎりぎり、498円のバニラア
イスクリームにした。姉が鼻をふんと鳴らす。
「それ、いつもここで食べてるじゃん。あたしがおごるんだから、た
まにはもっと変わったものにしたらどう」
「たとえば?」
「そうねえ。レスカとか」
姉がオーダーした飲み物だった。正しくはレモンスカッシュと言うら
しい。そこで僕はぴんと来た。
「それって、姉さんの書いてる小説のネタ?」

図星らしい。
本好きが高じて、このごろは部屋でせっせと何か書いている姉。「将
来、小説家になるわ」と家族の前で宣言して、みんなの失笑を買った
のはこの正月のことだった。迷惑なことに、書きあがったものを最初
に僕に読ませる。ピアニストやバレリーナの卵が不治の病にかかり、
恋人と悲嘆に暮れる。そんな甘くて、ありきたりのライノベばっかり
だった。
「喫茶店のシーンを書いてるんだけど、いっつもコーヒーとコーラ
ばっか飲んでるんで、たまには新しい飲み物をと思ってさ。コーヒー
やコーラは家で飲めるけど、レスカはこういうところじゃないとね」
「わざわざ飲む必要があるわけ」
「あるわよ。甘くておいしいレスカって書くだけじゃ、説得力がない
でしょ」
「甘くておいしい?」

店員さんがやってきた。
僕のアイスクリームと姉のレモンスカッシュをテーブルにおいていく。
氷で白く霧がついたグラスには、たしかにレモン色の液体が満ちてお
り、細かい炭酸の泡がぽつぽつと弾けていた。姉は約1分間、じっと
グラスを観察した。そして慎重にストローを曲げて、口をすぼめグラ
スから「レスカ」を飲んだ。
「甘くな〜い」
だろ。
僕は顔で返事すると、甘いアイスクリームを口に放り込む。こっちは
しっかりと甘い。ちょっとだけ傷ついた表情の姉は、もう一度、グラ
スを眺め、メニューを確認している。そして間違いなくそれがレモン
スカッシュであるという事実を受け入れようとしていた。僕はそそく
さとアイスクリームを平らげる。うかうかしていると、姉の視線が
こっちの甘いものに飛んできそうだ。
「あそこ、書き換えなくっちゃ」
姉はそう言うと、またひと口だけ「レスカ」を飲んだ。

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         今月のテーマ素材:  [酸っぱい]

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          [今月の巻頭詩]

      擦れ違い

      少し薄くて酸味が強い
      芳ばしくないコーヒーを
      美味しそうに飲む彼女
      楽しそうに飲む私

      サヨナキドリ
      2014/04/11 22:37

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   ▽△▽△  4 行 詩 の 展 覧 会  △▽△▽ 

         テーマ素材 「 酸っぱい 」

  擦れ違い ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ サヨナキドリ
  爽風(そうふう) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 動物病院
  ティータイムの裏側 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ aoi
  酸っぱい ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 森静野
  お遍路 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 実希

 ●作品表示の凡例 (作品は投稿順に並べてあります)
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タイトル
 4行詩本文
 (あとがき)
ペンネーム
投稿日時
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擦れ違い

少し薄くて酸味が強い
芳ばしくないコーヒーを
美味しそうに飲む彼女
楽しそうに飲む私

サヨナキドリ
2014/04/11 22:37
----------------------------------------------------------------
爽風(そうふう)

花曇りの空 憂鬱な日
株価も下がり ふところ寂し
今日は甘酸っぱい思い出に浸ろうか
五月の爽風は 後わずか

動物病院
2014/04/20 23:15
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ティータイムの裏側

酸味の強いプルーンを
煮詰めてジャムにした
固い果肉に砂糖を加え
時間をかけて鍋を見つめて

aoi
2014/04/29 19:06
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酸っぱい

おかゆだけでは物足りぬ
例えば真っ赤な梅干し
例えば焦げ茶なたくわん
酸っぱきものと一緒にかきこみたい

(あとがき)
父の病院食を見て思う。

森静野
2014/05/01 00:08
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お遍路

歩き疲れた道の途中で
お接待のすだちをかじった
口の中いっぱいに
やさしい酸っぱさが広がった

実希
2014/05/02 23:43
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[記録室]
投稿全作品数:14
推薦詩:5
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 編集室から ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

若葉が風に揺れる、さわやかな季節になりました。連休は外に出て、リ
フレッシュされた方も多いのではないでしょうか。外の空気と太陽に触
れながらだと、ありきたりのものでもなぜかおいしく感じたりしますか
ら不思議です。

さて今月のテーマ素材は「酸っぱい」でした。酸っぱいといえばフルー
ツですが、巻頭詩にはサヨナキドリさんの「擦れ違い」を選びました。
香りが抜けたコーヒーを向かい合って飲むふたり。このシーン自体が
ちょっと酸っぱく感じました。森静野さんの「酸っぱい」は、なんとも
わかります。病院では、酸っぱさよりもたぶん塩気のほうに問題がある
のでしょうけど。

6月号のテーマ素材は「意地」です。

意地とは、その人が持つ意思の強さや執着を指すことが多いようです
が辞書で拾うと
(1) 気だて。心根。根性。「―が悪い」
(2) 自分の思うことを無理に押し通そうとする心。「―を通す」
   「―を折る」
(3)物をむやみにほしがる気持ち。特に、食べ物に執着する心。
   「―が汚い」「食い―」
となります。あんまり意地を張ると、とかく孤立しがちな現代社会で
はありますが、あなたの意地、あるいはあなたの周囲で気になった意
地の張り方、通し方など、4行詩でお寄せください。

6月号の配信は6月1日、投稿締め切りは5月31日です。
4行詩の投稿をお待ちしています。

                    編集人 ジョッシュ

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 メールマガジン: 詩とエッセイの月刊ポエム5月号
     発行日: 2014年5月4日(通算204号)
   総発行部数: 約200
     発行元: mbooks(ジョッシュ)
          http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/index.html
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