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zoom RSS 月刊ポエム8月号「山」

<<   作成日時 : 2014/08/04 09:26   >>

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 掌編小説「山人」

 俊平は、今日こそは行ってみようと思った。
 その山は、窓の近くにあった。手を伸ばせば届きそうな近さだった。
しかし、やかんの水を飲む時、ついでに首をもたげてながめてみると、
その山はひどく遠くにでんと居直っていて、俊平に声を掛けていた。
 ここまで来いきるや。ここまで来いきるや。
 霞の向こうで、大勢の山人が、おーい、ここまでおいで、歩いてこい
と俊平を呼んでいるようなのだ。
 「山人が呼んどるね」
 体温を測りに来た母に言っても、母は眉をひそめただけで、受け合わ
なかった。
 山人は自分を呼んどる、と俊平は確信した。だから母ちゃんには聞こ
えんとだ。
 「母ちゃん、俺、いつになったら歩けるんかな。」
 そう思うと俊平はいたたまれなくなって問うた。
 「もうすぐじゃっけん。じきに歩けるようになるけん。」
 母の答えはいつもの通りだった。それは、まだ駄目よ、と俊平には聞
こえた。

 俊平が山人の話を聞いたのは、去年亡くなった祖母からだった。
 山には山人という番人がおって、山を守っとる。そして、おいがごた
独りの者の所に話しばしに来ると。おかげで、独りでおってん、退屈は
せんと。
 事実、去年は、山人が俊平の家を訪れ、縁側にいる祖母とよく話しを
していた。といっても、俊平はまだ山人を一度も見たことはなかった。
一度、山人が来たと思って急いで納屋に隠れ、縁側をこっそり見つめて
いたことがあった。でもその時やってきたのは山人なんかじゃなくて、
この村のまとめ役をしている人だった。がっかりしてその事を母に話す
と母は目をつり上げて怒った。もう二度とそんなのぞき見などするなと
きつく言われ、しないと約束させられたこと、俊平は覚えている。
 以来、俊平はその山人の住むという山と、いっしょに暮らしてきた。
元来、ひ弱な方だった俊平は去年の暮れにとうとう床に臥したのだった。
冬、その山はひどく怒ったような顔をして、不機嫌だった。俊平が話し
かけても、ろくに口をきいてくれなかった。
 ところが春になって、山を覆っていた雪が溶け出すと、それといっしょ
に、山が大きくあくびをしたようで、山人も冬眠から覚めたらしく、
俊平に陽気な声を掛けてくるようだった。山人との会話で、俊平は暇を
つぶした。
 ここまでおいで、歩いてこい。
 俊平は決まって、絶対行くせん、と答えた。あの山まで一度でいいか
ら行ってみたかなぁ。俊平は真剣に考えた。
 山まで行くのには、歩くことが必要だ。
 そう思い、俊平は母がいない時を見計らって、蒲団から抜け出し、立
ち上がる稽古をした。
 初めは、うまくいかなかった。頭を上げただけで、ふらっとした。ひ
ざががくがくなって、天井と床が逆さまになったような錯覚に襲われ
一人で恐くなって逃げるように蒲団にもぐり込み、めそめそ泣いた。蒼
白い肉のついていない足を、こん畜生と言ってたたきながら、泣いた。
 しかし、それでも懲りずに、俊平は立とうと思った。相変わらず、山
人は毎日毎日、俊平を呼んでいるようだった。
 おーい、ここまでおいで、歩いてこい。
 そうして、よろめきよろめき、どうにか窓に食い下がって俊平が立ち
あがる事ができたのは、立とうと決心してから、六日目の真昼近くだっ
た。
 立ち上がって窓から見た景色のまぶしさに、俊平はめまいを覚えた。
その山は高かった。恐ろしいくらいに高かった。その山は途中で、雲を
三つも突き抜いていた。
 去年まではこげん高うはなかったのに。
 俊平は前に、こんな景色を見たことがあるような気がした。確かあれ
は。
 あ、そうだ。祖母ちゃんの逝った山だ!
 そう思った瞬間、俊平は激しい吐き気に襲われた。目の前が真っ白に
なって、意識を失い、その場にずるずると倒れた。

 俊平は、自分の先を、二人の男に支えられて歩いて行く老婆に気づい
ていた。その老婆は後ろ姿が妙に小さく、白い服を着ていた。三人とも
一言も口をきかなかった。俊平の歩いている道は、小さな、けもの道と
いわれる道だった。俊平はその老婆にも、老婆を支えている二人の男に
も見覚えがあったのだが声を掛けるのをためらった。それほど、その三
人連れには、異様な雰囲気があった。
 俊平は、すっかり元気な足取りで念願の山に向かっていた。目指す山
は、もう眼前にそびえていた。俊平がその山の方に目を向けている間に
三人連れの姿は消えていた。俊平はこみ上げてくる嬉しさを、一生懸命
押さえながら、山に向かっていた。森にさしかかった。深い森だった。
 突然、全く俊平の期待を裏切るかのように森は途絶え、目の前にほと
んど直立の絶壁が現れた。
 上を見あげると、太陽が山の頂上あたりに陣取っていた。この絶壁を
のぼって来いというのか、俊平は幾分腹立たしげに問うた。山人の返事
は無かった。急に寂しくなってもう一度、頂上を仰いだとき、頂上から
落下してくる何か黒いものが目に入った。
 その落下物は少しずつ点から、形をなしてきた。人だった。それがさっ
きの白い服を着た老婆と気づいたのは、すぐ後だった。老婆は、顔をまっ
すぐ俊平に向けていた。
 その瞬間、俊平は電流に打たれたようになった。あ、祖母ちゃん! 
俊平は叫んだ。落下してくる祖母の顔だけが俊平の眼前に迫っていた。
 霞がかかっていた去年の春の記憶が、素早くよみがえった。
 祖母ちゃんは、山人に連れていかれたと。大きい兄ちゃんと小さい兄
ちゃんとが、山まで連れていったとやった。
 俊平は言葉で言い表せない恐怖に、全身が硬直するような感じを味わっ
た。

 俊平が寝汗をびっしょりかいて意識を取り戻したのは、窓の所で倒れ
てからだいぶ後だった。もう夜らしく、辺りには真っ暗だった。俊平は
自分の蒲団の中に横たわっていた。耳を澄ましても、山人の声は聞こえ
なかった。
 身体に先ほどの恐怖の感覚がよみがえり俊平は蒲団の中でぶるっと震
えた。
 そういえばあの日、祖母は俊平にこう言ったものだ。
 役立たずは、山人といっしょに山にいくさ。
 翌朝、体温を測りに来た母は、昨日の俊平の無茶について、何も言わ
なかった。俊平は、自分の気分がとても良いことに気づいて、その事を
母に告げた。母は、そうかい、と一言言ったきりだった。祖母のことも
話そうかと思ってやめた。俊平は母がいなくなると、水を飲もうと、や
かんの方に手を伸ばした。思ったより、軽く手が動いた。首を持ち上げ
てみた。めまいも覚えなかった。嬉しくなった。
 耳を澄ますと、山人の呼び声がひどく近くに聞こえるような気がした。
それもひとりじゃなく。おーい、ここまでおいで、歩いてこい。
 俊平は、今日こそは行ってみようと思った。

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         今月のテーマ素材:  [山]

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          [今月の巻頭詩]

      山の挨拶

      見知らぬ私が挨拶されて
      知らないあなたを労って
      元気になれるすれ違い
      頂上はもうすぐ

      サヨナキドリ
      2014/07/08 23:33

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   ▽△▽△  4 行 詩 の 展 覧 会  △▽△▽ 

         テーマ素材 「 山 」

  山の挨拶 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ サヨナキドリ
  迷走 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 動物病院
  山いろいろ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ nano
  無題 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ロウ異性
  あれ!? ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ チビ○

 ●作品表示の凡例 (作品は投稿順に並べてあります)
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タイトル
 4行詩本文
 (あとがき)
ペンネーム
投稿日時
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山の挨拶

見知らぬ私が挨拶されて
知らないあなたを労って
元気になれるすれ違い
頂上はもうすぐ

サヨナキドリ
2014/07/08 23:33
----------------------------------------------------------------
迷走

越えたと思った山
そびえる新たな山
迷走する政策
鬱な夏

(あとがき)
さらなる消費増税はあるのか?不安で気が滅入る毎日。

動物病院
2014/07/12 20:20
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山いろいろ

好きなモノは山盛り
この先の困難は山程
でも山は何でもない
超えちまえば絶景が

(あとがき)
思いっきり辛いカレーとかキツイタバコや濃いコーヒー。それ大好き。
人生困難はつきもの、しかもほとんどが初体験。それでもそんな山と思
えるものも超えればいい気分。

nano
2014/07/18 23:46
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無題

冷凍飯の山がやっとチャーハンになって
有効活用された
そこにある紫の玉葱は
ちょっとしたアクセントでした

(あとがき)
玉葱は夏の季語らしいですが、赤玉(断面が赤紫に見える)の玉葱は
ちょっと高級らしいのです。

ロウ異性
2014/07/26 23:34
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あれ!?

汗をふきふき登りつめる
気が付くと
あなたは向こうの高い山に
登山口は同じだったはず

(あとがき)
こんなことってありませんか!?ないよね〜

チビ○
2014/08/03 11:53
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[記録室]
投稿全作品数:13
推薦詩:5
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 編集室から ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

暑い日々が続いてます。お変わりありませんか。
冒頭のエッセイですが、今回は山がテーマということで私が18歳(若
い!)ころに書いた掌編小説「山人」を掲載してみました。私は生まれ
てから中学生のころまでを雲仙岳のふもとで過ごしました。ですから私
にとって山といえば雲仙岳のこと。ですが、実は雲仙岳という呼称がい
つも見上げていた山の正式な名前ではないことに後年気づかされました。
正しい山の名称は普賢岳、妙高岳で、雲仙は地名。そのことを知った軽
いショックで書いた掌編です。島原弁丸出しですが、意味不明なところ
があれば、お問い合わせください。

今月の巻頭詩にはサヨナキドリさんの「山の挨拶」を選びました。日本
人同士だとろくに挨拶を交わせない国民性なのに、山ですれ違うとなぜ
か素直に挨拶できる。これも山の魅力のひとつなのでしょうね。nanoさ
んの「山いろいろ」も楽しいです。

さて、9月号のテーマ素材は「巻き髪(Curly hair)」です。

巻き髪とは、うねうねとカールした髪質または髪型のこと。巻き毛。
昔々、巻き髪は天然!とか、からかったりしてましたが、あれから巻き
髪は華々しく復権。今日の少年少女マンガの主人公はほとんどが巻き髪
だったりします。さて、あなたの周りに巻き髪ヒーロー、ヒロインはい
ますか。

9月号の配信は9月7日、投稿締め切りは9月6日です。
4行詩の投稿をお待ちしています。

                    編集人 ジョッシュ

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 メールマガジン: 詩とエッセイの月刊ポエム8月号
     発行日: 2014年8月4日(通算207号)
   総発行部数: 約200
     発行元: mbooks(ジョッシュ)
          http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/index.html
     連絡先: prn81060_mbooks2アットyahoo.co.jp
          (アットを@マークにして送信ください)
     著作権: 著作権はmbooksおよび各作者にあります。 
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