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zoom RSS 月刊ポエム12月号「素手」

<<   作成日時 : 2014/12/07 09:25   >>

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素手

「おじさーん」
呼ぶ声に振り向くと、川原へと石段を駆け下りる女の子が見えた。不似
合いなくらい大きくて広つばの帽子、川風に飛ばされないようにそれを
両手でつかんだままだから、ひどく危なっかしい。帽子から長くて赤い
リボンが風に踊っている。それは女の子(姪っ子)がひどく欲しがって
いたものだ。そうか、ようやく母親(私の姉)に買ってもらえたのか。
年の瀬。久しぶりの生家。私は女の子の弟たち(甥っ子たち)と浅瀬を
泳ぐ鮎や鮠を追いかけていた。
「見て、見て」
川原に降り立った女の子が声を張り上げる。しかし、彼女の前には浅瀬
とはいえ水の流れがあった。水の向こうでじれったそうに、体をぴょん
ぴょんさせている。わかった、わかった。そういうつもりで、軽く手を
振ってみる。しかし、それだけでは不満らしい。
「見て、見て」
え?
女の子が躊躇しながらも、一歩、踏み出すのが見えた。まさか。よせよ
せ。私は川岸に向かって慌てて手を振る。しかし、女の子の視線は足元、
そのまま水の中を歩きだしている。

あ。

女の子がバランスを崩した。そのまま、真後ろに倒れる。どうやら浅瀬
の石で滑ったか。彼女の弟たちは姉の異変に気づかない。ぱしゃぱしゃ
と魚を追いかけるのに夢中だ。私はあわてて走り出す。しかし、砂利や
小石でうまく足が上がらない。すぐそこ、川面に女の子の両足がばたば
たしている。頭は水中に沈んだままだ。立てば膝くらいしかない浅瀬だっ
た。しかし、なぜか女の子は立ち上がらない。

頭でも打ったかと慌てて駆け寄ると、水の中で女の子の顔が笑っている。
その両手は白い指がしっかりと折り曲がったまま。つまり、広幅の帽子
を両手でつかんで離さないのだ。背中に手を回して起き上がらせる。さ
すがに、げほげほ言っている。しかし、その両手は相変わらず帽子のつ
ばをつかんだまま、絶対に離そうとしない。

「そんな子供だったよね」

20年たった今、私がそう言うと彼女は少し笑った。その指には小さな
真珠のリング、そして相変わらずの白い指。それがあのときの水濡れし
た冷たい素手の感覚を呼び起こす。私の可愛い姪っ子は今、大きな病と
戦っている。決着には時間がかかるらしい。でもあの時のように私に小
さいえくぼを見せてくれる。くしゃくしゃになった赤いリボンの帽子は
あれから彼女のお気に入りになった。そして20年。

「見て、見て」

真珠のリングを私にしっかりと見せびらかしてくれる。どうやら、彼
女は赤いリボンに代わるものを見つけたらしい。がんばれよ。

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         今月のテーマ素材:  [素手]

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          [今月の巻頭詩]

      故郷
 
      久しぶりに帰省して
      畑仕事を手伝った
      手袋しないと手が荒れるよと心配されつつ
      手に触れる土の感触を楽しむ

      実希
      2014/12/06 23:56


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   ▽△▽△  4 行 詩 の 展 覧 会  △▽△▽ 

         テーマ素材 「 素手 」

  冬晴れ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ サヨナキドリ
  素手 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 森静野
  故郷 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 実希

 ●作品表示の凡例 (作品は投稿順に並べてあります)
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タイトル
 4行詩本文
 (あとがき)
ペンネーム
投稿日時
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冬晴れ

左の手袋だけを取る
体温と体温が重なり
細胞と細胞を結んで
あなたと歩きだす

サヨナキドリ
2014/11/12 23:45
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素手

うなぎのように
夢はすべる
網なんか用意されてない
素手でつかむのだ

(あとがき)
ぬめるから大変。

森静野
2014/11/20 23:05
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故郷

久しぶりに帰省して
畑仕事を手伝った
手袋しないと手が荒れるよと心配されつつ
手に触れる土の感触を楽しむ

実希
2014/12/06 23:56
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[記録室]
投稿全作品数:6
推薦詩:3
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 編集室から ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

寒くなってきました。日本海側ではさっそく大雪警報で、あっという間
に真冬の厳しい攻撃にさらされている気分です。お変わりありませんか。
巷では忘年会シーズン突入ですが、どうか、体調に気をつけて。

今月は「素手」がテーマ素材でしたが、投稿数がわずかに6点と寂しい
月刊ポエムになってしまいました。巻頭詩には実希さんの「故郷」を選
びました。畑仕事の楽しみのひとつが、素手で土と遊べることだと思っ
てましたので、まったく同感。しかし、冬の畑仕事は「楽しめる」もの
じゃないかかもしれません。サヨナキドリさんの「冬晴れ」は素手を通
した体温のぬくもり、一体感が伝わります。

さて、来月(新年1月)号のテーマ素材ですが、「でたらめ(Nonsense)」
です。

でたらめとは、もともと「さいころを振って、出たその目のままにする」
という意味で、つまりは根拠がないこと。首尾一貫しないこと。いいか
げんなこと。また、そのさまや、そのような言動を指しているようです。

でたらめという生き方はなかなかできませんが、きちんきちんというだ
けだとちょっと疲れます。たまにはでたらめもあり? あなたの周りの
ちいさなでたらめを四行詩でお寄せください。

新年1月号の配信は1月11日、投稿締め切りは1月10日です。
4行詩の投稿をお待ちしています。

                    編集人 ジョッシュ

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 メールマガジン: 詩とエッセイの月刊ポエム12月号
     発行日: 2014年12月7日(通算211号)
   総発行部数: 約200
     発行元: mbooks(ジョッシュ)
          http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/index.html
     連絡先: prn81060_mbooks2アットyahoo.co.jp
          (アットを@マークにして送信ください)
     著作権: 著作権はmbooksおよび各作者にあります。 
          転載や引用は必ず事前にご相談ください。
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