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zoom RSS 月刊ポエム12月号「家路」

<<   作成日時 : 2015/12/06 09:54   >>

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家路

新しい店ができた。
駅前の食堂街を抜けたところ、駐車場と歯科医院の間に見かけない小さ
な看板が出ていた。
北風も寒いし、いつもなら急ぎ足で家路を急ぐところなのだが、看板を
見て歩みが停まった。飾り気のない外観だが飲食店らしい。間口の狭い
ガラス戸の向こうには木製のカウンターがあって、その向こうにエプロ
ン姿。客の入りはないようだ。
「いらっしゃいませ」
エプロン姿は若い女性だった。先客はいない。奥で鍋から湯気が立って
いるほかは、しんとしている。近頃はやりのBGMもない。左壁に小さ
な紙がピン留めしてあり、それがメニューらしい。イタリアンか。それ
にしても短いメニューだ。しかも前菜、パスタ、肉/魚、デザートとあ
るが、具体的な料理名はなにも書かれていない。値段もない。
「お飲み物は?」
「ビールとか、あるの?」
私の遠慮気味の声に彼女は白い歯をちらっと見せる。
「うちでつくったピルスナー系の地ビールですけど、いいですか」
「もちろん」
外からも小さい店だったが、中に入るとその狭さをいっそう実感する。
カウンターに座ると後ろにほとんどスペースがない。奥行きもせいぜい
4人くらいで満席か。これで商売になるんだろうか。
緑色のビール瓶と小さなグラスが出てきた。
「あれで全部?」
壁の紙切れを指差すと彼女がうなずく。
「じゃ、それください」
え?という顔をする。
「どんな料理が出てくるのか、聞かないんですか?」
「うん」
ビールをひと口。すっきりした透明感のあるビールだ。
「気にならないんですか」
「うん」
たぶん、知ってるから。ビールをもうひと口。
「承知いたしました」
軽く頭を下げてから、彼女は奥へと下がる。その背中につぶやいてみた。
「この店の名前、誰がつけたのか知らないけど」
「はい?」
白い皿にアンチョビやらチーズやらを慎重に載せながら、彼女は背中で
返事する。
「私の下の名前といっしょなんだよ」
彼女の背がぴくりとこわばった。
「あまり見かけない珍しい名前なんで、思わず足が停まってさ」
ゆっくりと彼女が振り向く。丸くて大きい目で私をまっすぐに見つめて
いる。
「まさか」
うん、たぶん、そのまさかかもしれない。外は雪になってきた。

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         今月のテーマ素材:  [家路]

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          [今月の巻頭詩]

      家路

      好きな曲を流してため息
      空っぽの頭と疲れた体
      ふとよぎる今夜のメニュー
      スイッチが切り替わる家路の車中

      チピ○
      2015/12/01 10:04

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   ▽△▽△  4 行 詩 の 展 覧 会  △▽△▽ 

         テーマ素材 「 家路 」

  家路 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 森静野
  帰りたい場所 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ サヨナキドリ
  ひとり暮らし ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 実希
  家路 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ チピ○
  枯葉 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ タイム

 ●作品表示の凡例 (作品は投稿順に並べてあります)
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タイトル
 4行詩本文
 (あとがき)
ペンネーム
投稿日時
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家路

金曜夜は家路につくその過程
それこそがご褒美
混む車内も華やいで見え
むしろゆっくり家に近づきたい

(あとがき)
心に余裕があると他人に優しくなれる。

森静野
2015/11/27 05:08
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帰りたい場所

いつからか始まった旅路の
どこからが家路だったのだろう
夕暮れの淵に佇み
はち切れる懐かしさよ

サヨナキドリ
2015/11/28 23:29
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ひとり暮らし

疲れた時も、落ち込んだ時も
家に向かって黙々と歩く
待ってる人はいないけれど
ホッとする空間がある

実希
2015/11/28 23:56
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家路

好きな曲を流してため息
空っぽの頭と疲れた体
ふとよぎる今夜のメニュー
スイッチが切り替わる家路の車中

チピ○
2015/12/01 10:04
----------------------------------------------------------------
枯葉

歩道の片隅で
風に追われたかすかな命が
カサコソ と
私の帰り足を急がせる

タイム
2015/12/05 21:06
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[記録室]
投稿全作品数:9
推薦詩:5
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 編集室から ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

忘年会シーズンですが、今朝の新聞記事によると、この季節に体調不良
を感じる人(成人)は全体の59%もいるそうです。そのなかでいちば
ん多いのが睡眠不足(眠気)と肝機能低下(だるさ)だそうです。注意
して、穏やかな年末年始を過ごしたいものです。

さて今月のテーマ素材は「家路」でした。巻頭詩にはチピ○さんの「家
路」を選びました。仕事からの帰り道に、どこかでスイッチを切り替え
るって必要でしょう。それが無意識でできると楽なんでしょうが。森静
野さんの「家路」にある「むしろゆっくり」に楽しみたい、実希さんの
「ひとり暮らし」にある「ホッとする」ところへ急ぎたい、そしてサヨ
ナキドリさんの「帰りたい場所」の「はち切れる」思いの行方。それぞ
れの家路への心象がしっかりと浮かびました。

来月号はいよいよ新年、テーマ素材は「自由 Freedom」です。自由とい
う言葉は使う人によって大きく変化する気がしますが、そもそも自由と
は自分の思いのままに行動することを意味しているようです。しかし、
これだけ人のつながりが増え、他人との距離がとりにくくなってしまう
と、自由というのは、他人に迷惑をかけないとか、むしろ条件付つきの
限定的なものになってきたのかもしれません。あなたにとっての自由と
はどんな意味をもつものでしょう。四行詩でお寄せください。

新年1月号は配信は1月10日(日)、投稿締め切りは1月9日(土)
です。4行詩の投稿をお待ちしています。

                    編集人 ジョッシュ

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 メールマガジン: 詩とエッセイの月刊ポエム11月号
     発行日: 2015年12月6日(通算223号)
   総発行部数: 約200
     発行元: mbooks(ジョッシュ)
          http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/index.html
     連絡先: prn81060_mbooks2アットyahoo.co.jp
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